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エゴルはかさぶたをひりっと引(ひ)っ剝(ぱ)がされたような顔をした。

「またそっちか。別に付き合ってるわけでもないし。それに、身なりで判断しすぎだよ」

「身なりだけで言ってるもんか! あんな女は……」

「しっ! だから、声がでかいんだよ」

エゴルは思わず母親の袖を引っ張った。本当はその口を塞いで黙らせてやりたいところだ。

「なんだよ。さっきから人のことを犬みたいにしっしってさあ」

母親は息子の手を払い除けて、ぷいとそっぽを向いた。すると、ちょうどカーシャがパイを平らげて椅子を引いたところだ。

「おや、もう食べちゃったのかい。もっとどうだい?」

つい今し方より、一オクターブも高い機嫌のいい声だ。どこを切り替えれば急にこんな声が出るのかとエゴルは呆(あき)れ返った。

いらない、と立ちあがったカーシャは、あたかもこの家の子のように素っ気なく自然体だ。ミートソースが右の頬にくっついて、口が裂けたように見える。まあ、いいか。これがカーシャだ。エゴルは「またこいよ」と笑顔で見送った。