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蜂蜜は、そのころかなり高い値段で取り引きされたので、夫は金が入るたびアニタのもとに為替(かわせ)を送って寄こした。長い旅の間、味も素っ気もなく送られてくるこの薄っぺらな紙が夫からの唯一の便りだった。アニタはそれを受け取ると、すぐに街へ持っていき、純度の高い金の板と交換した。ほんの少しでも、手に取って感じられる重みと手触りがほしかったのだ。
蜜の味とはほど遠い二人の関係だったが、夫は働き蜂のように蜜で稼いだ金をきっちり十四年間アニタのもとに運び続けた。そして次の春、出ていった彼はもう巣箱に戻ることはなかった。
父が彼を金の恩で縛ったから、彼は律儀に金で報いたのだろうか。学費を負担した父のために五年、妻にした女のために十五年。黙々と二十年を捧げて、もう返済したとばかりに彼は自由を掴みに飛び立ったのか。
アニタは思う。夫が義務感でこの家に留まっていたとして、二十年という歳月はどういう尺度で測ったものなのだろうかと。婿としての責任を果たしたと割り切るにはあまりにも短いけれど、女を一人捨て去るために費やしたのなら、それは残酷(ざんこく)なほどに長い。
「上手に甘えられない女だったけれど、私は……それでも期待していたんだよ、あの結婚にね」
カーシャはココアをちょうど飲み干したところで、カップの底を覗きこんで、中にできた模様を子どものように喜んでいる。話などまるで聞いてはいないが、アニタにはそれが好ましいのだ。
人には聞かれたくない話だが、語れば心はいくらか楽になる。