第3章 音楽のお勉強は何のため──歌唱の授業を例に
3-1 学校における音楽のお勉強は何のため
〈1-5〉で、音楽のお勉強は何のためにやるのか、ということに少し触れましたが、そうしたことは、他教科のお勉強を参照していくと、理解がしやすくなるのではないでしょうか。
例えば「楽譜に書かれている曲を演奏(歌唱・器楽)する」という活動(行為)を国語のお勉強に置き換えてみましょう。それはすなわち、「教科書に書かれていることを音読」するということと重ねることができます。
さて、国語のお勉強は、教科書を読み上げるだけでよいのでしょうか。そのようなことはあり得ません。自分が伝えたいこと、訴えたいこと、さらには生きていくためにそれらを主張しなくてはならない必要に迫られる場合に、言葉を操って自由自在に話したり書いたりできる、すなわち表現できるようにしなくてはならないはずです。
お手本の文章を書き写すこともあるでしょうが、それだけでよいはずはなく、表現せねばならない事柄は子ども、ひいては人それぞれによって異なります。
そう考えれば、音楽科のすべきことは、自ずと明らかになってきます。音(のレシピ)を自由自在に操って表現できるようにすること(また、そうした表現から深く読み取ることができる)が、真骨頂であるといえましょう。
例えば、言葉と声やBGM等を自在に操ることが組み合わさった表現が一層効果的になることは明らかです(声のトーンを変えるだけで、言葉による発表も大きく印象が異なってくるはずです)。
こうした言葉と音楽との関係注1)は密接であるといえます。このことに該当する音楽科の創作的な活動として、表現領域に掲げられている音楽づくりの分野に充てられている時間は、14.9%(担任)・14.2%(専科)という状況であるといわれ、音楽科のもつ問題の一つとして、「音楽づくり」(および「鑑賞」も)が十分に行われていないという実態があります)注2)。
感染症対策として歌唱や(息を使う楽器による)器楽演奏が大幅に制限されたことにより、歌唱や器楽ばかりが主に行われている音楽の授業や活動がほとんどできなくなり、CDばかり聴かせられたという話もよく聞きますが、実は、ここに本末転倒が見られるわけです。