そこで思いついたエゴルは、政府からもらった賠償金で中古のマイクロバスを買い、自分で走らせるようになった。彼好みに塗装をやり直したこのバスだ。
畑をあきらめ外で働くようになった村人を毎朝二十五キロ離れた町の工場まで送っていく。戻れば、今度は大きな子どもたちを隣町の学校まで送る。午後や夕方にはまた彼らを迎えにいくが、空いている時間は村人の求めに応じてバスとタクシーを走らせている。
住民の生活がより外へ求めなければ成り立たなくなった状況の中で、エゴルのはじめた商売は大好評だった。村の苦境を逆手に取って、勤労という言葉から一番かけ離れていたこの男が皮肉にも一人活気づいているのだ。
エゴルのバスは畑の中の道を通り抜けて村の中心に到着した。鐘塔の立つ広場と、わずか数十メートルの通りが生活の拠点で、そこを中心に南に農地が膨(ふく)らんでいるのがこの村の全体図だ。
民家は広場のある目抜き通りから南に向かって、まるでおはじきでも撒いたように点在している。
小さな村だが歴史は古く、中世のころから存在していた記録がある。
当時大王と呼ばれていた王が、この地に遠征し病に倒れた。それを手厚く介護したのがこの村の者たちで、毎年村の赤子を掠(さら)う悪い魔女を大王が退治し、恩に報いたという謂(いわ)れが残っている。
【前回の記事を読む】紛争で土地は踏み荒らされ、畑の土は傷んでしまった。なぜ自分たちだけがこんなに酷い目に…だけど、今こそチャンスなんだ。
次回更新は10月31日(木)、21時の予定です。