まずは実践的な行動を見せよう。自分の荒れた土地を、彼らが無償で修復してくれる。これなら、やり直せるかもしれないという希望が村人に少しずつ、ほんの少しずつでも湧いてくれば……。サッコは信じてその日を待っている。
鍬(くわ)やスコップを担いで引き揚げようとする彼らの後方からプワァーンと一つ、クラクションを鳴らしてバスがきた。オレンジ色とクリーム色に塗り分けられた派手なマイクロバスは、町の工場で働く男女を朝晩決まった時間に送り迎えする。
「乗っていくかい?」
満席のバスを止めて、幼なじみのエゴルが運転席から顎をしゃくった。白いハンチング帽をかぶった、陽気な色男エゴルの、これがいつもの挨拶(あいさつ)だ。空いた席もないのに、サッコを見かけるとちょっかいを出さずにはいられない。人なつっこさは子どものころのままだ。いいからいけ、 と手で払うとプップワァンとクラクションを鳴らしてバスはまた走り出した。
親の代には棺(かん)おけも製造する葬儀屋だったが、今どきそんなものは作らなくても電話一本、ボタン一つでメーカーから届く。カタログを開けば、標準仕様のものからデラックスな特注品までなんだってお取り寄せができる時代だ。
―こんな仕事してちゃ女の子にもてないじゃないか。
少年のころからそう言って反発していた彼は、親の仕事を継ぐ気などさらさらなく、免許を取って村でただ一人のタクシードライバーになった。需要は少ないが、そもそも町の空気を吸いにいくことが目当てなのだ。ふらふらと町に遊びに出れば母親もうるさいことを言うが、誰かを乗せていくのが仕事なら文句のつけようがない。
ところが村の交通事情は一変した。以前は、二時間おきに上下一本ずつのバスがこの村を経由して向こうの県まで通っていたが、紛争が起きてからはそれが途絶えてしまい、この村は今もってバスの路線から外されたままだ。