バケツもそのままに土手を駆けあがった二人はシャツの裾(すそ)をひるがえして逃げていった。

青年団の中でも年の若いユーリは下校時から夕刻まで村のあちらこちらを巡回し、積んだままの土砂や川縁(かわべり)で子どもたちが危険な遊びをしないように見張り役を買って出ている。紛争がはじまったころにはじめたことを終わった今でも習慣にしているのだが、ネットゲームにふけって家に閉じこもる子が増えた今では、もっぱらあの二人組の監視をしているようなものだ。

この金髪男、気はおとなしく、若い女の前ではとんと無口で臆病(おくびょう)なのだが、見かけはがっしりと男らしく、あんな子どもが相手ならいい脅(おど)しになっている。

「いつまでそんなものかぶってるんだ」

かぶらされたカーシャを𠮟ることもないが、怒るでもなくやり返すでもない反応の鈍さは見ているだけで苛々(いらいら)する。これだからいたずらなガキの良い標的になるのだ。

ユーリはバケツを脱がせて放り投げた。すると頭の上にどかっと乗った泥はずるずると顔面を滑り落ちて目鼻を覆い、顎(あご)の先からぽたぽたとこぼれてズボンを汚した。

「うわっ、ひでぇ顔」

沼から這(は)いあがったような頭が現れて、ユーリは思わず身を仰(の)け反(ぞ)らした。得体の知れない塊(かたまり)は面白がっているのか、その声に喉を一つふるわせた。