激しい雨だった。真っ暗で何も見えなかった。骸骨はずぶ濡れになって歩いていた。半ば無意識にふらふらと路面を漂っていた。雨が追い打ちをかけるかのようにその背を叩き、路面に弾ける雨音がバチバチと耳に響いていた。骸骨の目は虚ろだった。途中沢渡の集落を抜けてきたことにも気づかず、ただふらふらと歩いていた。そうしてどれ程経ったのだろう。オレンジ色の灯火の列が目に入った。闇の中に何かがぽっかりと口を開けていた。

骸骨は立ち停まった。足元に白線があり、それが中へと続いていた。トンネルなのだと気づくのにやや暫らく時間がかかった。そしてふと今まで一台の車も通っていないことに気がついた。だがわざとのように狭い歩道をえらんで辿っていった。壁が間近に迫り、時折り袖が触れて幽かな音を立てた。その様子はまるで何かの怯えやすい動物みたいだった。トンネルは後から後から続いた。雨は凌げたが、ひたひたと響く自らの足音が気になった。明々と点った灯火が不安を誘った。だが何を怯える必要があるというのだろう。またその目は虚ろになった。

やがてトンネルも尽きてダムが現れた。水銀灯が湾曲したダムに沿って緩やかなカーブを描き、水面に映ってきらきらと輝いていた。夜目にも判る満水の湖面で、それが息苦しいような圧迫感をもって迫ってきた。骸骨はそれから逃れるように反対側の縁に寄った。そしてそこに凭れかかると、ぼんやりとダムの下を見下ろした。闇の底から風が鈍い音とともに立ち昇ってきた。頬をなぶるような生暖かい風だった。いつの間にか雨は上がり、辺りの水溜まりに水銀灯の光がチラチラと揺れていた。

 

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次回更新は10月25日(金)、11時の予定です。

 

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