其の弐

どれ程時間が経ったのだろう。山の端が少し明るくなった。そしてそれが徐々に辺りを照らしていった。雲の切れ目に月が昇り始めたのだ。月明かりはその領域を拡げていった。そしてそれが湯船の辺りまで届いたと思う間もなく、「うっ」という声が漏れた。骸骨は縁に肘をかけのんびりと湯槽に凭れていた。

「うっ、くっ」

また正太が微かな呻きを上げた。だがそれは瀬音に遮られて骸骨の耳には届かなかった。しかし彼が、「ひゅーっ」というような悲鳴を上げた時、初めて気がついた。目を開けると正太がこちらを指差してぽっかり口を開けていた。しまったと思った時には遅かった。

正太はずりずりと身体を湯の中から持ち上げた。口をあんぐりと開け、目は瞠かれたままだった。

「ひええ、出たぁ」

そう言ったと同時に正太は裸で駆け出していた。めきめきと木の枝の折れる音がして、ごすんと鈍い音がした。正太は我を忘れて階段を駆け上っていった。何度も滑っては転んだ。

そして耳を澄ますまでもなく頭上でエンジン音がして、タイヤの悲鳴が闇を引き裂いた。やがて音は消え、辺りは瀬音に包まれた。