其の弐

それで喉元にゴム袋を下げることにしたのだ。食べた振りをしてその袋へ物を流しこむのである。それが自然に見えるように随分と練習をした。それで一安心したのも束の間、今度はトイレが遠いと怪訝な顔をされた。それで日に数度は用を足す振りをすることにした。だが入るものがないのであるから、当然出るものもない。骸骨は妙な臭気のする所へ入って、人間というのも結構厄介なものだと思っていたのである。

                               

一方正太はご機嫌だった。ふんふんと鼻歌を謡いながらハンドルを握っていた。彼もまたずっと働き詰めだったから、温泉で思いっきり手足を伸ばすという考えに夢中になったのだろう。

「シラホネ温泉かぁ‥‥」

骸骨はそっと呟いた。名前がよくないなと思った。だが正太はすっかりその気になっている。もう反対することは出来ないだろう。その日がずっと来なければいいと思っていた。そうなればこのまま仲良く暮らしていけるのにと思っていた。一方彼は何も気づかずのん気に鼻歌を口ずさんでいた。

だがその日はやって来た。正太が提案してから三日ばかり後のことだった。築地行きの予定が会社の都合で変わり、高山経由で敦賀まで行ってくれと言われたのである。

「やっほう、白骨だぞう」

そう言って喜ぶ正太を横目に、骸骨は暗澹たる気持ちに陥った。だがこの三日間で覚悟を決めていた。本当の姿を見せよう、それで駄目ならば仕方がないのだと思った。考えてみればいつまでも隠し通せるものではないのだ。

骸骨にとっては辛い荷積み作業が始まった。脂汗が額に滲みそうだった。これが最期の仕事になるのかも知れないのだ。だがそうかも知れないからこそ、きちんとしなければならない。そう思って黙々と働いた。ドサッ、ドサリと荷を積み上げていく。いつもは長く感じるのに今日はやけに早い。

やがて作業は終わり、ガチャリと荷室のドアをロックしていよいよ出発となった。骸骨は助手席に乗り、正太は伝票を受け取りにいく。それはいつも通りのことだった。北アルプスの向こうに沈む夕陽が鮮やかで、それが心に沁みた。