「先に入ってるぞう」

そう言う間もなくドブンと音がした。そして懐中電灯をくるくる回して辺りの様子を探ったりした。

「明カリヲ消シテ‥‥」

骸骨が蚊の泣くような声で言った。

「なんだあ、お前、女みたいなことを言うなあ」

明かりを消すと正太は声も高らかに笑った。彼の笑い声が瀬音に交じって辺りに響いた。一方骸骨は音もなく湯の中に滑りこんだ。

「おうっ、どうだぁ、いい所だろう、静かだって言ったけど、川音が少し騒さいかなあ」

正太は首まで浸かるとざぶざぶと顔を洗った。

「どうだぁ、気に入ったかぁ?」

「いい所ダナア」

骸骨も思わずそう言った。真っ暗でお互いにどこにいるのか見当もつかなかった。ただ声でそれと知れるだけだった。遠く遥かに星が見えるほか、目を瞑っていても開けていても同じことだった。あんなに真剣に考えこんだのが馬鹿らしくなった。こんなことなら何度来てもいいと思った。二人は唸ってみたり身体をぽきぽき鳴らしてみたり、思い思いの格好で暫しの休息を楽しんでいた。

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次回更新は10月18日(金)、11時の予定です。

 

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