「その人と上手くいかなくなったから、私と付き合いたいって事でしょう。それって何なの……」

もっともな言い分だが、そうじゃないんだと、祐介の言葉が喉元まで出かかった。その時、ちょうど先生が教室に入ってきたので言うのを止めた。別れてから告白すれば上手くいくと思い込んでいた安田の浅はかさが哀れだった。自業自得だと祐介は心の中で呟いた。そして、先生が話し始めたルネッサンス期のイタリアの画家、ボティチェリの講義に耳を傾けた。

やがて、先生は教室を暗くして、前方のスクリーンにスライドを投影した。巨大な純白の貝殻の上に立つ均整の取れた美しい裸婦の魅惑的な姿が現れた。周りの風の神や女神たちは、かすんで見える。

学生たちは、オーと声を上げ、そして息を呑んだ。誰もが見惚(みと)れているようだった。祐介は、美沙の顔立ちに似たそのヴィーナスに、美沙の姿を重ねていた。

学内にあるアトリエで、祐介と安田、それから北見の三人で来週ある学園祭の催し物の相談をしていた。すると、開いたままの入り口のドアをノックして一人の少女が入ってきた。祐介たちは、一斉にその少女に視線を向けた。

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