祐介は、安田の腕を掴んだまま洗面所へ連れて行き、赤く染まったその拳を水で洗った。傍らに立つ安田の着衣が、異様な匂いを放っていた。安田は、拳の手当てを終えると幾分落ち着きを取り戻した。祐介がビニール袋に入ったままの食パンを勧めると、安田は初めて口を開いた。「美沙の奴、俺を裏切りやがった。ずっと俺に気があるふりを見せていたくせに、今になって好きな男がいるとぬかしやがった。俺が慶子と別れた途端にだぞ……
[連載]海辺のレクイエム
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小説『海辺のレクイエム』【第5回】源 久
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小説『海辺のレクイエム』【新連載】源 久
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