「矜持(きょうじ)、自負心、自尊心、反骨精神はブンヤにとって大事な資質だ。君の出身大学が金科玉条にしている独立自尊と、天上天下唯我独尊(ゆいがどくそん)とは違うんだ。お釈迦様でもあるまいし」。

釈迦は生まれた直後に七歩歩いて右手で天を指し、左手で地を指して「天上天下唯我独尊」と言ったそうだ。ベテラン記者は「彼らは」と言って、右手を上に向ける。「天」ではなく「上」、すなわち上司のことを指すのは暗黙の了解だ。

「彼らは、反骨を反抗、自尊心を偏屈に自動翻訳して閻魔帳(えんまちょう)に書いている。聞く耳を持たない、鼻持ちならないヤツってわけだ、お前は」。

いや、いや、と口を挟もうとすると「まあ、聞け。お釈迦さまはこうも言っている。恨みが怨みによって鎮まるということは絶対にあり得ない。恨みは、怨みを捨てることによって鎮まる。これは永遠の真理である」

はっきり言うなぁ。批判、教導、訓戒、子どもが使うBB弾(ビービーだん)のように次々に飛び出す。

ブンヤは新聞記者、閻魔帳は人事考課表を指す。「彼らに」と仕草をまねて、「どう厳しく評価されても、やるべきことをやるだけです」と無駄に反論を試みた。

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