【前回記事を読む】「大谷はドジャーズに移って途方もない記録を打ち立てた。そして村上は日本を代表する若き主砲に育ったな」
プロローグ 三代の観客 二〇二三年
メキシコ料理でWBC決勝進出を祝う
俊英「詩のお兄ちゃんも立派だった。阿部一二三(ひふみ)が妹の敗戦の何時間かあとに畳に上がって見事に優勝した。『兄としてやるしかない。妹の分まで兄が頑張らないと』って不退転の決意で臨んだ。リベンジを果たしてくれた兄の雄姿に妹はもう一度泣いていた」
松子「世界最強の兄妹をテレビ観戦した諭がつぶやいていたわね。『悠真と紗耶香も仲良く切磋琢磨し合う兄妹になってくれたらなぁ』って」
垓下(がいか)で籠城した項羽は、劉邦麾下(きか)の漢軍に包囲され、四面から聞こえてくるのは楚歌の大合唱。それは股くぐりや背水の陣で有名な韓信の策略だった。楚の出身者に楚の地方民謡を兵に教えさせたのだ。「楚は占領された」と意気なえた項羽は敗れ去る。
第1章 二つの決勝戦〜WBCと甲子園 二〇二三年
三月二十一日、WBC決勝戦
胖(ゆたか)と諭(さとる)、悠真という大山家三世代の前夜の夢が本当に実現する。日本とアメリカのWBC決勝戦。一家は一塁側内野席に陣取る。日米両軍のスーパースターがそれぞれの国旗を掲げ先頭で行進する。
大谷翔平とマイク・トラウトの二人はまるでスポットライトが当たったかのように光り輝き、とびきりのオーラが漂う。「ショーヘイ・オオタニ」。選手紹介のアナウンスにひときわ大きな歓声と拍手が沸き起こる。