港口整形外科
ほかの患者たちは平岡の話につき合わされていた。平岡は、彼らの病気の予後をまるで院長のような口ぶりで、得意になって話していた。
「どっか悪い所ない?」
「どこも悪くないです」
最初は話を合わせていた彼らも、平岡の横柄な口調にやがて閉口してしまう。
早く出ていってほしい。病室の誰もが、そう願っているようだった。
それでも平岡は空気が読めずに自分の説教に酔いしれている。およそ二十分が経ち、職員専用のPHSが鳴ると、ようやく病室を出ていった。
平岡が出ていくと、病室からほっとしたようなため息がこぼれた。
「やっと出ていったか」
布団から顔を出し、思わず本音をこぼした。
「疲れるよなー」
カーテン越しにとなりの糖尿病患者が呼応する。
「ヤな奴だよな。わかりきったことを得意気に話しちゃって」
「すこしでも文句言うと、処置しに来なくなるし」
「ふつう体温を測りにきたなら、『田中さん、体温を測りますよ』とか言うじゃん? あいつの場合、カーテン開けて入ってきたかと思うと『ん!』て体温計出すだけ」
「人よりも背が高いってだけで、自分はえらいと勘違いしてるんじゃねえの。失礼だよな、まったく」