音原病院

病室に入ると、窓ぎわのベッドに座っていた水色のパジャマの中年男がにっこりと笑いかけてきた。男は、額が頭頂部まで後退したむき卵のような頭を、サイドの軟細毛(なんさいもう)でバウムクーヘンのように覆っている。僕は彼に目礼すると、となりのベッドに寝ころんだ。

残りの二人は小学生だった。一人は野球でデッドボールを喰(く)らい、目の下を骨折。もう一人は木の上から転落して腰にヒビが入り、入院していた。二人ともおとなしく、いつも笑いながら漫画を読んでいる。夕方になると両親がアイスクリームや揚げ饅頭(まんじゅう)といったおやつを持って現れ、子どもに食べさせていた。

和やかなムードをつくっているキーマンは、バウムクーヘン頭の鶴本さんだ。四十がらみの会社員で、話し好きで人懐っこい。腰にコルセットを巻いている。

まだ入院三日目で検査ばかりの僕とは互いにすれ違いが多かったが、僕はなんとなくこの人に好感をいだいていた。鶴本さんには、いつも同室患者の面倒をみようというやさしさがあった。頭の薄い人間はやさしいに違いない。

「来見谷さん、起きてください。昼食ですよー」恩ちゃんが昼食を運んできた。

今日のメニューは、ご飯、味噌汁、鯖(さば)の味噌煮、冷(ひ)や奴(やっこ)、パイナップル。

「明日の朝食は、選択メニューです」

恩ちゃんが、僕に黄緑色の用紙をさしだした。

「選択メニュー?」

「二種類のメニューの中からお好きなほうを選んでください」

「ずいぶんと太っ腹ですね」僕は用紙に目を通した。

A食――ご飯、味噌汁、納豆・薬味、もやしの和え物。

B食――パン、ジャム、ポトフ、サラダ、紅茶。

「デザートにプリンは出ないの?」