港口整形外科
「とりあえず、ここじゃアレだから下で話そう。コーヒー奢るよ」僕は起きあがり、車椅子に移乗した。
「どうだい、調子は」
日曜の平和な廊下を歩きながら、内田がたずねた。
「あそこ、六人部屋の真ん中で、居心地悪いわ」
「うるさいの?」
「真ん中のベッドって、両どなりに比べてまわりが狭いんだよね」
「そうなんか」
「新幹線で売られているサンドイッチのハムみたいなもんだ。となりの患者の奥さんなんか、カーテン越しにどんどん僕のベッド押すし」
「そんな女、蹴飛(けと)ばしてやればいいんだよ」
「蹴れねえよ、折れてるから。厚かましい女だとは思ったんだけどね。けど、納得した」
「なんで?」
「今、部屋を出るとき、ちらっとカーテンの隙間から見えたんだけどね」
「……鬼嫁だったのか?」
「巨漢だったんだよ、象みたいな。夫の横に座ろうとすると、でっかい尻が仕切りのカーテンからはみ出しちまうんだ」
「……それはまあ仕方ないわな」内田が苦笑した。
「それより、枕元になんか怪しい液体があったけど」
「何が?」
「オレンジ色の液体だよ」
「ああ、みかん酒のこと?」
「酒? 夜中こっそり飲むのか」
「いや、そうじゃない。育毛剤だ」
「自家製かよ」内田は一瞬立ち止まると、腹をかかえて大爆笑した。