一斉に平岡バッシングが始まった。それまで口を閉ざしていた者も話に加わる。曰(いわ)く、石橋院長にチクチクいじめられているのではないか、ナースステーションでほかの看護師たちとうまくいっていないのではないか、人から愛されたことがないのではないか。

皮肉にも、看護師の悪口で患者の心がひとつとなる結果となった。

話を黙って聞いていた僕は、旭川の病院スタッフのことを思い出した。今考えると親切な人に囲まれていたんだなぁ、しみじみとそう思った。

「そうだ」

僕は起きあがり、床頭台の冷蔵庫からみかん酒の瓶を出した。瓶のフタを開け、オレンジ色に染まったホワイトリカーの中からペロンペロンになった夏みかんの皮を取りだし、ゴミ箱に捨てた。あとは一か月間このまま寝かせておけば完成だ。

ベッド周辺にやさしい香気が漂っていた。

 

暇だ。特にこうして人を待っていると、時間が経つのがよけいに遅く感じられる。

僕はベッドに横になりながら、友人の内田が訪れるのを待っていた。昨夜メールがあり、今日病院に会いに来るという。昼までには来ると思っていたが、午後になり、三時を過ぎようとしていた。

最近になって、友人や知人が見舞いに来るようになった。すこし老けたね、会う人会う人からそう言われるたびに、僕は後退した剃りこみのあたりを触りながら口角を歪め、苦笑してみせた。