第1章英語教師は英語をどう教えているのか

第1節 まず、今、何が問題なのか

最初に、現在、学校で行われている英語教育がどのような経緯でそうなっているのか、そして、そこで教える教師が何を目標としてきたのか、またどのような課題があるのかについて、大きく変化した授業のやり方と共にさっと振り返っておきます。

日本の中学や高校では、文法や和訳などで伝統的に日本語が使われてきました1,2。読者の中には英語で苦労するよりも綺麗な日本語でどう訳したらいいかで大いに苦労した方もいるかもしれません。

しかし、90年代に国の政策がコミュニケーションスキル重視へと大きく転換して以降、英文理解を中心とした読解型の日本語説明から英語によるコミュニケーション中心の展開となり、より実践的な4技能(listening, reading, writing, speaking)へ焦点をあてることが主流となりました3

その後、文部科学省は「英語で授業を行うことを基本」として高校教師の英語使用政策を推し進め4、教師の役割が訳読からスキル目標達成へと増大したことから5,6、今日、英語教師は日本語と英語で授業を行うようになっています7,8

より正確に言い換えれば、高校の英語教師は入試対応をしながら、なおかつ日本語も制限し、その分、より多くのことを英語で話すよう国から求められるようになりました。

本書では、教師のこの複雑な「話す」という行動に着目し、英語の授業(インストラクション)で教授発話のことを指すインストラクショナル・スピーチ(instructional speech)の頭文字を取り、以後、これをISと呼ぶこととします。

そして、教室でインストラクションを行うときの教師の発話行動を本書ではIS行動と呼びたいと思います。

2017年には中学校でも日本語は補助的に止めて授業を英語で行うことが基本となったことで9、英語による実践的なインストラクションが中等教育全体を通じて規定されることとなりました。

今日、教師には日本語による英文読解などに頼ることなく、母語を極力介さない話し方と伝え方によるアプローチが求められています。

言うまでもなく、こうしたインストラクションの流れは、学習者が英語を聞いたり話したりするコミュニケーションに慣れるのに必要な教育的アプローチとして導入されました4,10