第1章英語教師は英語をどう教えているのか
第1節 まず、今、何が問題なのか
また、表(2012)では12名の日本人教師へのグランデッド・セオリー・アプローチ1と呼ばれる調査を通じて、教師には日本語容認信念と母語依存、またそれらに起因する母語と英語の間の葛藤があり、この葛藤が英語を話そうとする行動を阻害するという、Atkinsonと同様の結果が示されています。
教師にとって日本語を授業から完全に排除するのは葛藤が強く難しいと言えます。そのため、心理的負荷を徐々に軽減しながら英語行使を充実させることが大切となり、中でも(1)教授環境の整理、(2)動機の維持、(3)困難感や不安の緩和、そして(4)日本語と英語のバランスの適正化の4つがポイントとなります2。
この際、学習者の母語には、ローカルな共同体に根ざす独自の役割として外国語を理解したり不安を緩和したりする学習補償機能があることから3、4、5、6、母語と外国語(日本では日本語と英語)のそれぞれのIS行動における質的・量的な役割のバランスが問題となります。
初・中級レベルの学習者を対象とする教師の英語行使は、英語への接触機会の拡大を通じた教授目標の達成に直結しています。
しかしこれに対して、母語を使うときの教師の役割は、不安解消や動機づけなどの情緒的役割5、7、8、9から、集団(教室)での英語理解促進という社会認知的な役割3、4さらに、タスクにかかる時間の効率化・円滑化などの機能的役割0、11に至るまで、英語と異なって間接的に学習を支援するための様々な役割があるからです。6、12、13、14
以上のことから、IS行動の研究では英語と日本語の2言語が最適化されたバイリンガリズム(2言語行使での最適なインストラクション)に着目した上で、それぞれの発話が持つ実践的かつ実質的な役割を幅広く探り、学校の教授目標との関連からその役割を総合的に判断する必要があるのです。
他方、中田(2006)によれば、国内の英語教師に関する研究では、以前から学習支援のためのタスクの研究や教授法に関する研究は豊富にあるものの、教師のやり甲斐や動機づけ、すなわち教授信念や行動原理についての研究は必ずしも十分とは言えないようです。14
また、日本人教師のIS行動時の心理的プロセスのメカニズムに関しても未だに十分明らかではありません。