【前回の記事を読む】多くの日本人英語教師は日本で生まれ育ち、日本の英語教育で外国語としての英語学習経験を有する学習バイリンガル

第1章英語教師は英語をどう教えているのか

第2節 教師の話し方について何がわかっているのか

第3項 教師のセルフ・エフィカシー(TSE)と適応行動

 

 

ここで、教師の心理と行動のメカニズムについてこれまでわかっているモデルや理論を概観しておきます。米国の心理学者Banduraは、環境と人と行動の三者が認知的作用によって相互に関係づけられているとする社会的認知の理論を提唱しました1,2,3

これによれば、人は課せられた仕事が上手くいったかどうかという「効力信念」を判断の梃子として、そこから感知した「結果期待」を元に次なる行動を起こすといいます(図1)。

Banduraは、このとき個人が感知する主観的認知形成作用をセルフ・エフィカシー(perceived self-efficacy)と呼びました3。日本語では自己効力感と訳されます。

Pajares & Usher(2008)という二人の研究者は、この認知形成作用が個人と行動と環境の3つが相互に影響し合って決まる2,3ことに着目し、このモデル(図2)を元にセルフ・エフィカシーを教育に応用しました8

この理論は、教師の動作主体としての特異な行動(例えば、数学教師として数の概念を教えるなど)を予測し、また、学習者の動機づけや習慣的行動の改善を促す適応的な教授行動の枠組みも提供しています。

本書では、このモデルにしたがって、外国語教師が教室で外国語(英語)を教えるときの適応的な枠組みとしてこの社会的認知の理論を応用したいと思います。

図2は、教師(個人)が教室で学習者との相互社会的な交流を通じて、認知的、情動的、身体的な行動原理を得、それが動作主体(agent)としてIS行動(教授行動)との相互作用を生むことを表しています。