【前回の記事を読む】「席に着くなり上着を脱いだろ?」襟元の開いたシャツを指されて…全て見抜かれているような気がした。

人生の切り売り

五 喪失

「覚えてないから言いますけど、よくそんな女と付き合ってましたね」

「あすみちゃんは初めて俺を見つけてくれた人だから」

「え?」

「俺はいい人で安牌で基本的に友達コースなんだって」

「……私、そんなこと言ったんですか?」

「いや、君以外のいろんな人が」彼は自嘲気味に笑った。

「あすみちゃんのマイペースすぎて身勝手なところは嫌いじゃない。おかげで俺自身ちょっとわがままになれた」

そろそろかな―と思ったら、案の定彼はクイと私の顎を持ち上げて優しく口づけた。そういうことが知りたくてのこのこついてきたのだから、覚悟はできている。

「自分の世界にばかりこもってないで、もっとちゃんと俺のことを見てほしい」

「……だったら、小説家とは付き合わない方がいいと思います」

「でも、俺が好きなのはあすみちゃんなんだよ」

「それは確かにわがままですね」

掛橋さんが私を抱きすくめ、部屋の奥へと誘導する。そのまま寝室に連れ込まれる構図が見えたのは、やはりジャメヴだ。

「俺が欲を出したから捨てられたんだと思ってた。でもあすみちゃんの小説を読んだら、精一杯の意地と優しさだったんじゃないかなって」

「ごめんなさい」

「どうして謝るの?」

「たとえそうだったとしても、もう分からないので」