ただ、私は比較的ストレートに心情を文字に落とし込んでいたはずだ。彼が感じたことが的を射ている可能性は十分に考えられる。
「君の新しい彼氏に出くわさなかったら、都合のいい男でいいからよりを戻そうと頼み込んでいたかもしれない」
「彼氏? あ、ナツメくんのことですか?」
「あいつはくん付けなのか。ナツメって名字? 名前?」
「それは……」
「どっちでもいいか。全部忘れたあすみちゃんが頼ったのは俺なんだから」
ごく自然な流れで、私はベッドの上に押し倒されていた。電気は点けていないが、リビングダイニングから差し込む明かりで彼の表情は十分判別できる。
「いいんだよね?」
誠実そうな瞳が真正面からこちらを見据えている。
私が頷くと、次のキスはもう少し深く求められた。応じ方なんてとうに忘れてしまったはずなのに、身体が覚えている。いや、もっと人間の本能的なものかもしれない。
「あすみちゃんは、変わってないよ」
「はい?」
「俺の大好きなあすみちゃんのままだ」
彼の唇が首筋を這い、服の上から胸をまさぐられる。刹那、悪魔に絡まれた時の記憶が頭をかすめたが、そこには天と地ほどの差があると気付く。
「……良かった」
「え?」
私はまだ、その指先からぬくもりを感じ取ることができた。彼の愛を受け止めることができた。