七.中渡牧場

あーあ、と伸びをしながら内燃は山川に語りかける。

「山川はやっぱり真面目だなぁ」

「それにしてもこんな気持ちのいい草地は見たことないな。よくできた芝生みたいじゃないか。昼寝ができそうだよ」

「ええ。父はよく牛を見ながら昼寝をしていますよ」

との千尋の言葉に、一同噴き出すように気持ちのよさを体中で表現するかのように笑った。笑い声は、晩春の空に響き渡っていった。

千尋は小さな剣先スコップを持ってきていた。

「うちでは、いつもこうやって、草地が健康かどうかを見ているの」

と言うと、手早く草地に三〇cm角の切れ目を入れて、草地の一部を切り取るように掘り起こした。黒々とした土が現れる。

「黒い。こんな黒い土は初めて見た」

山川は、驚きを隠さずにつぶやく。

「ここを見て」と千尋が指さす。

「草地の表面から数cmと、その下は明らかに違うでしょう?」

確かに、表面の数cmは、牧草の枯れ葉のようなものがある。数cm下までは枯れ葉がだんだんとボロボロと分解しているように見え、その下は火山灰の黒土になっている。 

「うちでは、この枯れ葉の層が数cmある草地がいい草地だとしているわ」

と言いながら、表面の層を白い下敷きの上で少し割って見せた。びっくりしたミミズがのたうち回っている。目にようやく見えるような小さな生き物がもぞもぞと動いているのも見える。

「この子たちは、わが家の大事な一員なの」

と言いながら、千尋はミミズたちをそっと土に戻してあげた。