七.中渡牧場

川原は、電気伝導度計を取り出し、電極をメムの中心にそっと投入した。大河は川原の肩越しに電気伝導度計を見つめながら、値を確かめる。

「どれぐらいだ?」

「○・○五(mS/cm)だ」

「ニシベツ川源流と変わらないじゃないか。本当にここは酪農地帯のど真ん中なのか?」

大河は、驚きをもって電気伝導度計のメーターをのぞき込んだ。

「確かにど真ん中だ。化学肥料と濃厚飼料が少ないことが、関係するかもな」

出丸はそう言いながら、採水ビンに手早くメムの水をサンプリングした。

妹の春美が放牧地にやってきた。ちょうど調査を終えた山川、内燃に、「お昼の用意ができましたよ。ご一緒にいかがですか?」と声をかけた。

「えっ、いいの」

山川は、少しびっくりしたが、内燃は山川の肩をたたく。

「せっかくだ。ご一緒させてもらおうぜ」

「お姉ちゃん。お父さんは?」

「メムの方へ、水産科の先輩方と行っているわ。もう戻ってくると思うけど……」と言い終わらないうちに、重盛と大河、川原、出丸がメムの森から出て来るのが見えた。

庭の芝生には長テーブルが置かれている。中渡家の面々と山川、内燃、大河、川原、出丸は、めいめい席についた。千尋は山川の隣に座った。

テーブルの上には、自家製のパンと庭で採れたグズベリーのジャム、蒸かしたジャガイモのチーズ焼きが並べられ、めいめいのコップにはバルクから取って沸かした牛乳が注がれている。

佳代子の「カムイに感謝して、いただきまーす」の号令で、すっかりおなかをすかせた九人は、いっせいに食べ始める。

佳代子は春美の隣に座っている。小声で、

「千尋も、いい子をつれてきたね」

「ニシベツ市街地に住んでいるらしいよ」

「それじゃあ、期待できるかもね!」

佳代子も重盛を婿として捕まえた口なので、期待しないわけにはいかないのである。

重盛と大河たち水産クラブの面々は、酪農民と漁師、という立場を超えて、話がはずんでいる。

重盛はゆっくりと語る。

「この家に代々伝わる原則なんだが……」

「牧場面積の三割は森として残すように言われてきたな」

「それに、草地一haに牛一頭が限度。それ以上は増やしてはならないことも言われてきた」