八.硝酸態窒素
川原と出丸はあることに気が付いた。
「電気伝導度の値が、結構いろんな値になっていますね」
「周りが草地になっているふ化場では、高い値になっているようだ」
「電気伝導度が高いとき、どんな成分が高くなっていると思う?」
久保田が考えさせるかのように語りかけた。川原はぐるっと頭を巡らすとこう答える。
「電気伝導度が高いときは『イオン』が多いときですよね……そうすると、イオンになりそうな成分に注目すべきですかね」
冊子の表には、電気伝導度の他に、「硝酸態窒素」「ナトリウム」「カリウム」「カルシウム」「マグネシウム」「pH(ペーハー)」「溶存酸素」「COD」などの項目が並んでいる。
三人は、イオンになりそうな成分を目で追った。
「電気伝導度が高いとき、硝酸態窒素が高くなっていないか?」と川原。
「カリウムやカルシウムも高そうだぞ」と出丸。
二人の言葉にうなずきながら、大河はまとめるように言う。
「ということは、『イオン』の正体はその三つになるか」
三人のやり取りを聞きながら、久保田はさらに続ける。
「もう一つあるんだ。溶存酸素と逆に連動しているイオンじゃない成分がある」
川原は、データをじっとのぞき込みながら、探るようにつぶやく。
「イオンじゃないと言えば……pHかCOD(化学的酸素要求量)かな……」
ちなみにCODとは、ふん尿などの有機物が水に多く含まれると、高くなる値である。
出丸は、
「CODじゃないか。溶存酸素が低いときは、CODが高そうだ」と言う。
「ということは、CODが高くてふん尿が多いときは、溶存酸素が少なくなるかもしれない、ということだよな」と大河は深くため息をつきながらつぶやいた。
「そう、今日の最大の情報は、電気伝導度だけではこの先進めそうにないということだ」久保田は諭すように話を進めた。
「ここに水産用水基準がある。特に窒素とCODに関しては基準が新しくなった。窒素は一mg/L以下、CODは四mgO/L以下だ。これをこれからの突破口にできるんでないかい?」
「ということは、ニシベツ川で、窒素とCODがクリアされているかどうかを調べると、酪農科の連中によりはっきりとモノが言えることになりますね」
川原は、目の前がクリアになったような表情をして、久保田に答えた。大河、川原、出丸の三人は、次なる目標を得て、走り出さんばかりとなった。
久保田は続けた。