八.硝酸態窒素
「さて、このデータをグラフにしてみよう。横軸がメーターの値で、縦軸が硝酸態窒素の濃度だ」と原田。
川原と出丸は、てきぱきとデータをグラフにしていった。四つの●は、一本の線になりそうだった。
「原田さん。四つの点を直線でつないでいいんですか?」と出丸。
「もちろんだ。線でつないでみよう」
グラフは、右上がりのまっすぐな直線になった。原田は、直線になったことを確認するとこう言った。
「OK、これを検量線って言うんだ。これでメーターがどんな値になっても、そのとき、硝酸態窒素がどれぐらいかを、はっきりと示せるんだ」
それじゃあ、河川水のサンプルでやってみようと、原田は、大河、川原、出丸の三人を促した。試験管に七つの川の水のサンプルをピペットでそれぞれ入れると、硝酸態窒素と反応する試薬を入れる。五分後、吸光光度計でメーターを読み、硝酸態窒素の値をはじき出した。
「やっぱり、ニジベツふ化場の値は小さいな」
川原がデータを見ながらつぶやく。出丸もデータを見比べながら、
「牛が多い流域は、値が大きいようだ。ニジベツふ化以外では、水産用水基準の一mg/Lを超えているなぁ」と言う。
「やはりな、これで酪農が川を汚している証拠がまた一つはっきりした。久保田所長は、電気伝導度の中身の一つは、硝酸態窒素だと言っていたよな。そのことをグラフか何かにできないんかい?」
大河がそうつぶやくと、出丸は首を大河に向けてこう言った。
「富阪先生に教えてもらった散布図を描いてみようや。横軸が電気伝導度で、縦軸が硝酸態窒素ではどうだい」
川原と出丸は、黒板に散布図を描いていく。七つの●の連なりは、明らかに右肩上がりになっている。
「やはり、電気伝導度が増加すると、硝酸態窒素も増加するんだ。汚れ原因であるイオンの一つは硝酸態窒素だったってことがはっきりしたな」
大河は、事実が一つ一つ明らかになることに、高揚感を覚える。川原もそれは同じである。
「それに、流域が酪農地帯では、水産用水基準を超えているってこともな。これは酪農科の連中に強く言えそうだ」
興奮気味の三人に原田は、「追究する手段はたくさん持っていた方がいい。CODを測定してみないか?」と水を向けた。
CODも同じような方法で測定すると、やはり、水産用水基準を明らかに超える地点がいくつか見つかった。
流域が酪農地帯では、CODの値は高くなっている。CODが高いということはふん尿が流れ込んでいる可能性を示している。そして、ふん尿が川に流れ込むと、細菌たちがそれを分解しようとして酸素を使ってしまい、溶存酸素が下がるのである。