川原はそのことにいち早く気付く。

「CODも、ニジベツふ化場以外は水産用水基準を超えている。これは結果的に酸素不足になるんだろう。こっちの方はかなり深刻な問題じゃないか?」

「一応、溶存酸素も測ってみないか?」と言いながら、出丸は溶存酸素計を持ってきた。

CODが高くなると溶存酸素は、明らかに下がっていくことが、散布図ではっきりと示された。

「CODと溶存酸素の問題は、かなり押せる」と出丸がそう言うと、「近々、意見発表大会がある。そのときにこの事実を酪農科の連中に突きつけてやろうじゃないか」

大河は、次の対決に向けて、意を決するように決然と言い放った。

そのとき、ふらりと訪れたのは、やはり内燃である。

「皆さん興奮気味ですなぁ。何か面白いことが分かったんですかい?」

「おお内燃か。電気伝導度を高めている原因の一つが分かったんだ。それは硝酸態窒素だ。硝酸態窒素が川に流れ込んでいるということがはっきりした。そして、CODが高くなっている。つまりふん尿が川に流れ込んでいる可能性があるということだ。何が川に流れ込んできているのか、だんだんはっきりしてきたぞ」

大河に、やはりそうですかい、内燃は農業クラブの連中に直接言うのは刺激が強いかもしれんですなぁ、と言いながら、でも二年の山川は知っておいた方がいいかもしれませんなぁ、と言って、来たときと同じようにふらりと立ち去って行った。

その頃山川は、学校の試験草地で土壌採取を行っていた。ステンレス製で高さと直径が五cmほどの、銀色に鈍く光る一○○mlの採土円筒を、草地の表面にそっと置く。

小さな角材を採土円筒の上にあてがうと、少しずつハンマーで打ち込んだ。採土円筒がすっかり土に埋まると、土壌ナイフでそっと採土円筒を掘り起こした。土を崩さないように採土円筒から土を取り出す。山川は、採取した土壌をじっと見つめた。

山川は、土をじっと見つめながら、中渡牧場の土を思い起こしている。あの、黒々として、表面にふわっとして黒っぽくなった枯れ草の層がある、あの土だ。

学校の試験草地の土は、確かに黒いが、黒々とはしていなかったし、枯れ草の層もほとんどなかった。表面から地下五cmまで、火山灰そのもの、といった感じの土だ。

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