「ギシギシなんかの広葉雑草も少なそうだ」
と言いながら、内燃は山川と千尋に、冠部被度を計ってみるように促した。
冠部被度を測定すると、雑草と裸地が非常に少ないことが、数値で示された。
「これが本当に、一○○年近く草地更新をしていない草地なんだろうか」
「学校の試験草地とは草の種類が違うけれども、草地更新直後のような草地だ」
山川が確かめるように、つぶやくようにそう言うと、
「やっぱり土が何か違うんでないかい。土をちょっとサンプリングしたらどうだい」
内燃はそう言って、土をサンプリングする一○○mlのステンレスの筒(採土円筒)を差し出した。
山川は、採土円筒をそっと草地の表面に置くと、角材を載せ、ハンマーで少しずつ打ち込んだ。千尋は、自分とは違う草地の見方をする山川と内燃の様子を、少し複雑な面持ちで眺めていた。
重盛の案内で、大河、川原、出丸の三人は、メムの周りの森に入っていった。
「そっと入ってくれ。ここにはカムイがいる」と重盛。
一〇mほど進むと、重盛が立ち止まり、右側の枝を指さした。
「あれがコタンコロカムイだ。少し左側の巣にもいるだろう」
小さな子供ほどの大きさがあるコタンコロカムイのつがいの一羽は、巣で雛たちを温めながら目をつぶっていた。もう一羽は右側の枝で目をつむっていた。眠っている、というよりも瞑想しているかのように見えた。流域生態系の頂点に君臨するカムイとしての威厳を、十二分に感じさせた。
コタンコロカムイたちの巣の左側をそっと通り抜けると、メムにたどり着いた。メムは周りの森よりも五○cmほど低くなっている。川床は火山礫で覆われている。その火山礫の中から、清浄な水がこんこんと湧き出していた。