偉大なる我がボス ミスター・ザ・キング・プルート様

硬い根雪が溶け、小鳥の囀りが聞こえるようになり、新芽が大地を覆う。川の流れは日が経つごとに急となる。

全ての生きとし生けるものが歓迎する春が、ここオマハにも訪れていた。

ニックは、厳しい冬を、侘しいテントで暮らしながら何とか凌ぎ、主人であるザ・プルートが来ることを待ちわびていた。

あれから2度、手紙を出したものの何の返事もなく、半信半疑のまま待ちくたびれていたが、ある日の早朝、ザ・プルートの側近兼ボディ・ガードの、ジャック・ザ・リボルバーが、馬に乗って突然現れた。

「ザ・キング・プルート様の到着は、数日後だ。最新式のレミントンのライフルと、ハンター百人を連れてこられる」

ニックは、さもあろうと、薪炭に水やテントの用意を既に済ませていた。

「で、バッファローはいるのか? もう一つ、インディアンどもはどこに隠れていやがる」

「へえ、バッファローの群れがいるのは確実です。つい一昨日も、子連れのバッファローどもが、新芽を食べていました。インディアンはわかりませんや。あんまり寒いんで、巣に籠ってるんでしょう」

「ふん、そうかい。俺はいささか、くたびれた。ちょっとテントを貸してもらうぜ」

どうにも空気がおかしい、ビッグ・コレクターの第六感が騒ぐ。何か良くないことが起こるのではないか、そう感じたコレクターは、ライジング・ウルフのティピーを訪ねた。

「誰か来るのは間違いないだろう。昨年の冬から、ずっと同じ所にテントがある。目つきの悪い男が一人、こっちを犬のような目で見てやがった。しかも今朝、馬蹄の音がしたぜ。春の訪れを待って、誰かが来たのだろう。恐らくそいつは先発隊だ。近いうち、もっと来るぜ……」

「ウルフはどうするつもり? 食べ物や飲み物、弓や槍は十分備えてあるけれど……」

「どうせ、バッファロー狩りだろう。俺たちが初めて会った時のことを覚えているか」

「ええ、大量のバッファローの皮が全て剥がされ、無残に死んでいたわ」

「今度来る奴らもそんな手合いさ。残虐な連中だ。バッファローの群れ以上に、俺たちを狙ってくるだろう。まずは見ることだ。おっと、これはお前の得意技だな。何人の編成なのか、武器をどれだけ持っているのか、援軍は来るのか、落ち着いて備えることだ。俺たちは、奴らより高い位置にいる。焦る必要はないが、決して偵察は怠るな」

そう言うと、ライジング・ウルフは目を瞑り、耳を地面につけて横たわった。

2か月を超す、オマハへの長旅の中、痛めた足に、バッファローの脂を毎日丹念に塗り込んでいたブラック・フォックスの脚力は、十分過ぎるほど戻っていた。

「ツー・サンズ、ここまで来れば、オマハはもうすぐさ。あの山を越えるだけなんだ。けど、何だか嫌な予感がする。私は一足先に、様子を見てくる。あんたはゆっくりおいで。何かあれば狼煙を上げる。青は大丈夫。赤は危険。黄色は待て、だよ」

そう言い残すと、ブラック・フォックスは、目にも留まらない速さで、大草原を疾走していた。フォックスという綽名そのままに、険峻な岩肌を乗り越え、傾斜をものともせず、彼女は行く。

時折立ち止まり、大地に耳をつけ音を聞き、鼻を利かせ、五感の全てを使い、彼女は、絶え間なく襲ってくる嫌な予感の正体を知ろうとしていた。