第二章 フィルダース・チョイス

まゆみさんや弘田さんが、すさんでいく僕に対して何かを言ってくれたようにも思うけど、僕は聞く耳を持たなかった。

同じ高校に進学した中田君も、心配して家に何度も来てくれたけれど、僕は口を固く閉ざすしかなかった。たとえ、つかの間でも、この状況を忘れられることができれば、なんだってよかったんだ。

そして、時だけが過ぎた。母はこの世を去った。父とは向かい合うこともなく、お葬式は形だけ、空虚で大袈裟な演出で終了した。親戚は母の形見を我先に取り上げ、あっという間にいなくなった。僕は高校三年生になっていた。そんな僕に、ある時手紙が届いた。

蜷木崇君へ

君のお母さんのことは、本当に残念だったと思います。君のことはずっと気になっていたけど、なかなか会ってくれないので、男同士で照れくさいですが、こうして手紙を書きました。

今、君はお母さんを亡くしてしまい、周りは誰も理解してくれない、という寂しい気持ちでいっぱいでしょう。僕は君と小さな頃からずっと遊んでいましたから、君の家庭環境は大体わかります。

だから、君が朝から学校にも行かず、喧嘩や博打ばかりするのもわからんではありません。でも、僕は君の友達と思っているから、はっきり書きます。

今君がやっていることは、ただの甘えです。ただのバカです。もし僕にここまで書かれて反発しないなら、君はただのくずです。僕は君の才能を惜しみます。

君は中学の時から、野球部の部長が打てないぐらいの球を投げていたんだ。このまま、野球をやめるなよ。

初めて野球をした日の君の笑顔を僕は忘れていません。もし気が向いたらいつでも電話をください。また一緒にキャッチボールをしようぜ。

中田 わたる

僕は中田君からの手紙を何度も何度も読み返した。しばしの間迷ったものの、僕は心を閉ざし続けた。そして非行に走った。もうどうしていいかわからなかった。

無免許でバイクを乗り回したり、他校の生徒と喧嘩したり、自動販売機を破壊したり、無茶ばかりした。きっと、自分の生を実感したかったんだろう。

ただれきって乱れた生活にも、魅力は確かにある。むしろ悪いことの方が刺激的で面白い。過去も未来も希望もない。

僕にはもう、何もなかった。僕は、これから自分がどうなろうとも、とにかく逃げたい一心で、その時その時の欲望や感情だけに身を任せた。全てはどうでもいいことだったのさ。

ある日の深夜、それは急に耳に飛び込んできた。