第二章 フィルダース・チョイス
また野球と向き合うんだ。僕の体は鈍りきり、筋肉は脂肪に変わっている。ただ、もうやるしかない。自分の人生を切り開くのは、自分しかいないんだ。これからは自分との戦いだ。もう決して逃げない。負けはしない。
季節はもう夏に向かっていた。当たり前だけど、野球は一人ではできない。かといって、いまさら簡単に野球部に入部させてはもらえないだろう。かろうじて入部できたとしても、おそらく球を握らせてももらえない。それでもいい。球拾いでいいから、僕は野球がしたかった。
意を決して、僕は野球部の顧問に入部を申し込んだ。予想通り、大柄な顧問の顔から表情が消えた。
「ふざけてるのか」
顧問はいきなり、僕の制服の襟首をつかんできた。
そりゃそうだ。久しぶりに登校したチンピラが、真顔で野球したいなんて言っても、取り合ってもらえないに決まってる。
「今までに自分がやってきたことは自覚してます。試合に出してくれ、なんて図々しいことは言いません。球拾いでも、草むしりでも、何でもやります。野球がしたいんです。僕を野球部に入れてください」「寝言を言うんじゃねえよ。変に不祥事を起こされても、皆が困るんだよ!」
顧問の恫喝に、職員室の空気は凍りつく。いつ暴力事件に発展するかと、教頭は机の上の書類を片付けるふりをして、ちらちらとこっちを見ている。僕は頭を深々と下げ続けた。
「ふん、明日その頭を丸刈りにでもしてくれば、考えてもいいぞ。どうせお前みたいな奴は、その程度の我慢もできやせん」顧問はそう吐き捨てた。
「ありがとうございます」