ふれあい
ウオーキング
初夏の休日の朝は楽しみだ。
夜がしらじらと、まだ完全に明け切らないうちからウグイスが盛んに囀りだす。仲間うちで競っているようだ。一説によると縄張り争いをしているのだ、とも。
「だんな、もう朝だよ。雨も降っていないよ、早く起きて歩いて下さい」
寝室の出窓の直ぐそばで啼くので、私にはそう聴こえる。今日も、ウオーキングシューズを履いて玄関から飛び出す。最近は漸くホトトギスも啼きだした。こちらも早朝から、ウグイスと張り合うように声を上げている。
「テッペンカケタカ」
「トッキョキョカキョク」
と。庭に出て、声のする方を見上げると、空を飛びながら囀っている。へぇーなかなか面白い鳥だ。私のウオーキングの経路は何時も同じである。住まいから、糸島の景勝二見ケ浦の、夫婦岩が見える海岸まで歩く。
往復四~五キロの距離である。海のオゾンを一杯吸いこんで歩くが、途中で逢う人は大体決まっている。老犬を連れて散歩のY氏とか、本格的なジョギングで二十キロは軽く走るI氏など、気持ち良く挨拶を交わしすれ違う。
夏場になると、通学途中の自転車に乗った中・高校生にもよく逢う。
「おはようございまぁす!」
土地の子供はみんな良い挨拶をする。先日、妻は、後ろから自転車に乗った女の子に、大きな声で
「こんにちは!」
と言われたので、びっくりしたと述懐していた。
たまに黙っているのがいたら、それは大体マチから来た若者であろう、と思っている。週日は勤務の関係からこのコースを歩く事は出来ないが、天神の地下鉄の階段を上がる所から歩き始める。
会社まで歩いて行くのが日課である。こっちはそんなに距離はないから精々一・五キロくらいか。それでも朝だから爽やかである。気持ちは良い。
しかし、大人に逢っても、又子供とすれ違っても挨拶はない。たまに小学生にこちらから声を掛けると、応えてくれる事はあるが。糸島はやはり田舎だからか、人情も厚く付き合いも良い。
私はもともと土地のものではないから田畑を持っていない。朝ウオーキングをしている時、畑に出て仕事をしている人が、
「農薬は全然使ってないよ、帰りに持って行って! 此処に置いとくから」
と言って野菜など引っこ抜いて、道路脇においてくれる事がある。つい二、三日前の土曜の朝、往路で道を挟んで、お互いに手を振って挨拶をした農園の主が、帰路に声を掛けて
「待っておった、なかなか引き返してこないので、何処まで行かれたか、と思うとった」
と畑から取り出して私の手に乗せてくれた。
「これはなんですか?」
「色付きのレタスみたいなもの」
むらさき色の野菜である。根元に泥のついたまま手づかみで、家まで持ち帰り朝の食卓に供した。
「今度からビニール袋でもポケットに忍ばせておいたら?」
と妻は気を利かせて言ったが、そんな時は誰にも逢わないもの。まあ、そういったものであろう。