初秋の久住山へ

さて、当日は天候を気にして、出発時間を少し遅らせたので、家を出たのが午前七時五分頃と記録している。車で高速九州道を大分方面へ向かい、そして九重インターで一般道へ。

それからは、牧ノ戸(まきのと)峠へひた走りであった。この天気ならば、行けるかも知れない、と言う希望が出てきたので、速度も自然と速くなった。十時丁度、牧ノ戸の駐車場に到着した。空を仰いで、よし! 登れそうだ、と、決断。

一軒しかない峠の茶店で、ビッグサイズの握り飯を一個ずつ買って、リュックに押し込んだ。何処かでこれを、食べる余裕くらいあるだろう。そんな事で結局、登山口出発は十時二十分頃となってしまった。

愈々、登山開始。家内は付いて来れるだろうか、牧ノ戸の駐車場で少し腰を痛めた、と言っていたので、途中でリタイアかな、と心配したが、思ったより健脚だった。

これから先は、登山に神経を集中して、記録するのを忘れてしまった。記憶だけを頼りに、振り返ってみる事にする。

登り始めて、先ず、最初のピークは沓掛山(くつかけやま)であった。アップダウンがかなりある小高い山で、頂上付近は私にとって、特に難所であった。

備え付けの鉄の梯子や鎖に摑まって、へっぴり腰になって、下りたり登ったり。かなりキツイ所だな、と、妻と話しながら進んだ。尤も、常連や山に慣れた人なら、岩場の雰囲気を味わうなど、楽しむ余裕もあったろうが、私みたいな初めてで、高齢者の部類に入って来た者は、そんな雰囲気になれなかった。

此処を越えた後は、なんの変哲もないだらだら道。十二時を回ったと思った頃、前を歩いている二~三人が、座って弁当を広げ始めた。我々夫婦も右へ倣(なら)えで、道脇の岩の上に腰を下ろして、麓で買った握り飯を食べて休憩。

この辺までは良かったが、西千里が浜と思われる平坦な、広々とした所を通過して、星生崎(ほっしょうざき)と記された所に来た頃から、視界も朧(おぼろ)になって来た。パンフレットなどでは、阿蘇の涅槃像(ねはんぞう)と称されている光景が、幾つか見られる所がある、との説明だったが、それ所ではなかった。

久住分かれ、と言う所まで来た時から、霧雨が降って来て、それからは小雨や風との戦いが始まり、無人の避難小屋に着いた頃は結構濡れていた。此処まで来たのだから、やはり行こう、と避難小屋で数分間休憩の後、先を急いだ。