初秋の久住山へ
下りは比較的速く歩けた。
しかし、岩場や石ころ道での下山は、心と体のバランスが取れなくなって来た。気持ちだけあせるが怪我をしない様に、慎重に下りよう、と自分に言い聞かせながら歩いた。
妻はだんだん足が上がらなくなった、とぼやき始めていたが、それでも、衣服はぐしょぐしょになりながら、何とか調子を合わせてくれた。
麓まで段々下りて来て、あと少しと言う所だったろうか、今度は、私の爪先が痛くなって来た。下山はどうしても、体の前半身に負担が掛かる、あと、少し! もう一息!と自分を励ましながら、牧ノ戸まで何とか辿りついたのは、少し暗くなり始めた頃であった。
ウインドブレーカーを着ていたが、体の中までぐっしょり濡れていた。今回の登山は、台風の接近など、天候こそ良くはなかったが、他の面では比較的恵まれていた、と思っている。
又、遠望が利かなかったのは、次回の楽しみとして、ともかく二人共無事に完遂できた事を、感謝したい。
平成二十三年九月
カミさんタクシー
私がいま住んでいる所は、玄海灘に面する糸島半島の突端である。
最近テレビなどでいろいろ紹介番組があるので、だんだん全国的にも有名? になって来た。海岸沿いの道路は、サンセットロードなどとネーミングされ、夕陽がきれいな里でもある。
夫婦岩(めおといわ)がある二見ケ浦は、伊勢志摩の二見ケ浦と双璧とも言われ、朝陽の伊勢に対し、こちらは夕陽の二見ケ浦とも宣伝されている。
水平線の彼方に沈み行く“落日”を静かに見つめていると、荘厳な雰囲気に浸る事が出来る。特に六月の夏至の日に、夫婦岩の間に夕陽が沈んでいく景観は、又格別のものと謳(うた)われている。
しかし、残念ながら、この時節は丁度梅雨時で、なかなか願いがかなえられる日は多くない。今年も当日は雨でとても望めなかった。
翌日は曇り空で、微かな希望を持って、海岸に行ってみたが、雲が厚く掛かっていた。多くのカメラマンが三脚を据えて、日暮れまで構えていたが、空振りであった。
「夏至の日は、大体雨期の真っ最中なんですよねー!」
多くの人のつぶやきと溜息を聞きながら、引き上げて来た。それほど綺麗な海岸線なので、道路沿いにパスタや軽食を出す、こじゃれたレストランが並び立つ様になって来た。
そしてご多分に漏れず、多くの老若男女が訪れてくる。特に夏場は若者が多い。そのすぐ手前の所に、私の住んでいる桜井伊牟田集落があるのだ。
自然環境はとても良いが、反対に交通環境は決して良い方ではない。此処は車なしでは暮らせないと言っても過言ではない。どこの家でも一人一台の割りで、少なくとも軽自動車の二~三台はある。
公共交通機関と言えば、ローカルバスの路線はあるが一日十数本程度で、それは私が利用したい時間帯とは、かなりの隔たりがある。
しかも我が家から、バス停まで坂の里道(りどう)を下りて、歩かなくてはならない。そんな環境のなか、私は毎日、ここ糸島半島から福岡市内まで通勤している。