まず、私の通勤経路をご紹介すると、最寄りのJR筑前前原駅まで、距離にして丁度十キロある。そこからJR筑肥線に乗る。更に乗り入れしている地下鉄で天神まで行くと、電車だけで三十五分の道のりである。天神から勤務先までは西鉄バスを利用するので、ドアツードアで大体一時間二十分は費やす事になる。

そんな訳で、半島の突端近くに位置している我が家から、どうしても最寄の駅まで出るのが難点である。ひと頃まではタクシーを利用していたが、数年前から経費節減で止むを得ない事になった。ご時世であろうか。

それで毎朝、毎夕、妻の運転によるマイカーに頼っているのだ。毎日、私が朝食中に妻はマイカーの始動と自分の身支度を整える。

そして、私の食事と着替えが済んで車に乗り込むと、ハンドルを握りひたすら駅へと走ってくれる。おまけに私が乗るのは後部座席である。

助手席だとベルトが必須の条件となって来るので、面倒だ。朝の数分を惜しむ身にとっては、その時間さえ大切だ。

今朝も六時二十五分に家を出発、駅へ向かって走った。信号が近くなってくると自然にスピードが上がって来る。

「おい、いま黄色になったばかりだ、まだ大丈夫だ、行けるよ! スピードを上げて渡ってしまおう!」

片道一車線の道路では遅い車が前にいると途端に遅くなる。

「しまった! 一足違いで高速バスが割り込んで来た。なんとかならんかなア、こんどバス停に止まった時に追い越してくれ!」

「対向車が来てるから、追い越されないよ、危ないからゆっくり後ろからついて行こう!」

駅までの十キロも、忙しい時にこんな会話を交わしながらの小さな旅である。最近信号が多くなって来たので、段々時間が掛かって来るようになって来た。

やがて、駅の狭い構内に到着しても、停車出来る場所は限られているし、うろうろ探す時間も惜しい。毎日の事だから、常連はおおむね顔ぶれ、いや車ぶれ?(こんな表現があるかどうか知らない)が判って来た。

何時も下車してから、夫婦で内と外で手を振り合って、別れを惜しむカップルがいる。

「いいかげんにして、はよう行って貰えんやろうか、後がつかえとりますばい!」

車内から、やっかみ半分で言っているのだ。こんな具合だから、家をなるだけ早く出なければ、ひと電車遅れてしまう事になる。

私をJR駅まで送って帰宅後、やっとゆっくり自分の朝食にありつけるそうだ。これが妻の朝の一仕事になっている。

毎日ご苦労さんである。