【前回の記事を読む】後ろ姿を夢中で見て、目が合うと大げさに浮かれる。そんな様子で好意を隠せてると思っていたのが意外だった。
第三章「一筋の涙」
「あー……もう集中力切れた。もうほんと無理」
静かな図書室の沈黙のなか、隼人の声とぱんっと教科書を閉じた音だけが響く。隼人は天井を仰いで中途半端に口が開いている。
「俺も。ちょっと休憩しようよ」
僕の同意を求めるよう視線を送って悠人がそう言う。時計に目をやると時刻は十八時半を少し回ったところ。先ほど隼人に懇願されて休憩してからまだ三十分もたっていない。
「だめ」
「透の言う通り。もう少し頑張れよ」
手元の問題集から視線を外さないまま拓也は言う。
「出た、ガリ勉サッカー部コンビ」
唇を尖らせた表情で隼人は僕たちに交互に指をさしてくる。この数日で何度このやり取りを繰り返しただろう。入学してからの四か月でわかったことは、この何かと目立つ四人組の中でも、サッカー部の僕と拓也、野球部の隼人と悠人とでは気質が異なるということ。
夏休み明けの実力テストまでの一週間は部活が休みになる。毎日こうやって四人で図書室に来て勉強をしているんだけど、隼人と悠人の集中力のなさにはほとほと困っている。
「いいよな、透も拓也も勉強できて。な、隼人」
「ほんと、透は昔から成績上位なんだよ」
「いや、みんな期末テストはだいたい一緒の順位だったじゃん」
宿題を忘れてくるのが常連になっている隼人、そして居眠り大王の悠人。いつも不思議に思うのだが、この二人も別に勉強ができないわけではない。むしろ騒がしいだけで僕たち四人組は学年の中でも成績はいい方だ。
この学校は上位二十位までは掲示板に名前が貼り出されるのだが、四人ともそこに名前が載っているくらいだ。隼人や悠人に限って夜な夜な勉強しているなんて想像できないし、塾に通っているわけでもないから地頭がいいんだと思う。
だからといって二人の誘いに乗ってサボるわけにもいかない。一学期の授業が全部テスト範囲になるし、あまりにも悪い点数だったら放課後はしばらく補習があって部活に行けなくなると先輩たちが言っていた。
炎天下のなか、朝から晩まで練習に明け暮れてチームの士気が高まっている夏休み明けだ、それだけは何としても避けたい。
「教科書見てたって覚えた気がしないんだよ」
ぱらぱらと雑にページをめくりながら隼人は言う。
「拓也みたく問題集やりなよ」
「授業で使わないから家に置いてきちゃったよ」
「俺も」
「まったく……」
つい頭を抱えてしまう。この二人は余裕があるんだかないんだか。授業をしっかり聞いて毎日家でも復習している僕だって今回の範囲の広さに焦っているというのに、能天気でいられるのは少しうらやましくも感じる。