【前回の記事を読む】「立候補をお願いします」と見渡すが、みんな目を合わせてくれない。その時、沈黙を破ったのは意外な人物だった…
第二章「雫との出会い」
「じゃあ雪野さん、さっそくだけどこれまでに決まった役割を書いてもらってもいいかな?」
「わかりました」
僕より数段緊張している彼女を見ると、しっかりしなければという気持ちが自然に湧いてくる。
「委員長……黒・田・透……、副委員長……佐・竹・隼・人……っと」
聞こえるか聞こえないかほどの小さな声でつぶやきながらコツコツと音を立てて黒板に役職を書いていく。彼女らしい丁寧で小さな文字。彼女の後ろ姿を見るのに夢中な隼人はさておき、早いところ残りを決めてしまおう。
重要な役割が先に決まったからか、そのあとはあっさりと決定した。みんな現金だなと思いながらも最初の仕事を終えたことに安堵の胸をなでおろし、三人それぞれ自分の席に戻っていった。
「雫ちゃんが書記なら俺は委員長に立候補するんだった……」
帰りのホームルームを終えて教室に残っている人はもうほとんどいない。日が長くなってきたとはいえ、まだ春先だから窓の外は夕焼けでオレンジ色になっている。
入学式の翌日から入部したサッカー部の練習に行くための支度をしていると、隣の席の隼人はひどく落ち込んで机の上に置いたカバンに頭をうずめては何度もため息を繰り返している。
「楽しようとするからだろ」
「透だって俺が去年委員長で大変な思いをしていたのを知ってるだろ?」
「だからって僕に押し付けるなよ」
「……透にかっこいいところ全部取られたし」
ふくれっ面でこちらに目を向けてくるけど、そんなことを言われたって今回のことは自業自得だろう。僕を委員長にしたことには微塵も悪びれる様子もないし、本当に困ったやつだ。
「隼人はずっとデレデレ雪野さんの後ろ姿ばっかり見てかっこ悪かったもんな」
「嘘? 俺かっこ悪かった?」
ねえ、ねえ、とちょうど通りがかった拓也の袖をつかんで涙目で確認している姿はまるで小さい子供のようだ。
「かっこいいか、かっこ悪いかでいえば後者だけど、そんなことより隼人が雪野さんに気があることは本人以外にはばれたよな」
「──嘘だろ」
拓也の言葉を聞いてうんうんとうなずく僕を見て、先ほどよりも絶望の表情を浮かべている。ついには頭を抱えてしゃがみこんでしまった。
「そもそも隠す気ないじゃん」
「いやいや、隠してるよ。思いっきり」