【前回の記事を読む】塾に通ってもないのに、学年トップ圏内の友達…宿題をしょっちゅう忘れ、授業中居眠りしてるのに成績が良いのは、地頭良いから?

第三章「一筋の涙」

実力テストが終わると新人戦に課外学習、合唱コンクールと盛りだくさんの行事にクラス委員として駆り出され、あっというまに少し肌寒い紅葉の季節になっていた。エアコンのない教室の蒸し暑い空気に嫌気がさしていたのもいつの間にか忘れるほどに過ごしやすくなった。

始業を伝えるチャイムが鳴ってしばらくすると、ガラガラと教室のドアを開く音と同時に、石川先生が入ってくる。

「おはようございます。はい、みんな席に着いて。大事なお知らせがあるから」

先生は教卓に向かいみんなが席に着くのを見渡す。

「来週の水曜日は授業参観があります。三組は国語の授業になるので、作文発表会を行いたいと思います」

えー、という不満の声を一蹴するように先生はパンっと軽く手をたたく。授業参観では担任の先生が担当する教科の授業をするということで、僕たちのクラスは国語になったようだ。

「みんながこうやって毎日生活できているのはお父さんやお母さんが毎日支えてくれているからです。せっかく保護者の方々がみんなの授業風景を見に来てくれるので、私たちは中学生になって成長したよってことを伝えられる大切な場なの。だからみなさんには『感謝』をテーマに、授業参観までに作文を書いてきてもらいます」

ざわざわとみんなが周りと目を見合わせている中、原稿用紙が配られる。確かに改めて家族への感謝を作文にするなんて気恥ずかしいなとは思ったが、隣の二組は音楽だから合唱発表会、一組に至っては体育でダンス発表会だと聞いている。それに比べたら僕たちのクラスの方がましだろう。

「透はいいよな、お母さん優しくてきれいだし、料理もうまいんだからいくらでも書けるよな」

そんなことないよ、と隣の隼人に答えようと顔を向けると、その奥でうつむいている雪野さんが目に映った。

(……泣いてる?)

きちんと表情は見えなかったが、一筋、涙が見えた気がした。光が当たってそう見えただけかもしれないが、いつも先生の目をまっすぐに見つめて話を聞いている彼女が視線を落としてうつむいている。そんな姿が一日中気がかりだった。

「……雪野さん、大丈夫?」

「え?」

彼女が驚くのも無理はない。朝の様子が気になったのに、僕が声をかけたのはもう夕暮れ時。そろそろ部活に行こう、と言う拓也に用事があると伝えて、教室で雪野さんと二人になれるときを待っていた。彼女は先生が毎週教室に飾る花に水をやって毎日最後まで残っている。頼まれたわけでもないのに優しい人だ。

「大丈夫って何が?」

「えっと……今更なんだけど、朝泣いてた?」

「…………」

目を見開いて黙り込んでしまう彼女を見て、聞いてはいけないことだったのかと急に申し訳なさでいっぱいになる。

「ごめん、言いたくないならいいんだ。ちょっと気になって。大丈夫ならいいんだけど」

どうしよう、なんて言えばいいんだろう。女子と積極的に話した経験がなさすぎて、どうすればいいのかわからず僕まで黙り込んでしまう。でも、そんな様子を見た雪野さんの口元が少しだけ緩む。