孫の足音

数日後、次女夫婦が黒猫のちょび子を連れて来福した。ここ数年帰省のときは、可愛がっているネコを新幹線に乗せて連れて来ている。それで、今回も慣れた動作でキャリーケースに入れて、「のぞみ」の座席のそばにそっと置いていたそうだ。

ペットホテルに預けると、結構払わされるし、当のちょび子も他の動物と一緒では、ストレスも溜まるらしい。それで無料の同伴となったもの。喜んだのは孫の大輝である。

しかし、当のちょび子は迷惑そうに逃げまわっている。大人と子供では(さわ)り方が違うので、どうも気持が悪いらしい。

食器棚や、冷蔵庫の上にいち早く跳び上がって避難している様は、滑稽であるが、当のネコとしては、甚だ困惑と言った恰好である。

数日後、当のちょび子が、我々老夫婦の寝室へ入りこんで出て来なくなった。妻がそれこそネコなで声で、

「ちょびちゃん!」

と呼んでも、飼い主が入って来て手を出しても、壁際を巧みに逃げ廻ったりで、言う事を聞かない。そこで、妻が思い付きで、大輝に

「だいちゃーん! ちょびちゃんをバァーバの部屋から出してくれないかなぁー」

と叫んだら、当人は喜んで、板張りの廊下をバタバタ、ベタベタと足音をたてながら走って来た。そして、ちょび子の立て籠もっている、その部屋に入って行ったら、途端にちょび子は慌てて跳び出して、廊下のカーテンレールの上に跳び上がった。

どうやら、黒猫のちょび子は、廊下をバタバタと走って来る、大輝の足音が聞こえると、一目散に逃げて行く態勢を取っているらしい。

「だいちゃんは、ちょび子の天敵になってしまったなぁー」

と私は笑ってしまったが、当のちょび子はさぞかし困っている事だろう。

「ちょびちゃんは、だいきのこと、きらいなのかなあー」

と、当の本人は、あとで、(つぶや)いていたそうだ。何故逃げるのか、まだ判らないのである。こんな光景もあと一、二年くらいか。その頃はもう大輝も相当成長して、優しく可愛がっている事だろう。

長女夫婦が孫の大輝を連れて、一足先に帰京した。黒猫ちょび子は大輝の足音が聞こえなくなったので、それ以後は、のんびりと、そして悠々と家の中を歩き回ったり、廊下の真ん中にごろんと寝込んだりして楽しんでいる。

やれやれ、やっと静かになったニャー。と。

平成二十三年七月