東京都立広尾病院事件東京高裁判決と医師法第21条
(4)医師法第21条は「外表異状」で決着
同33条の2
次の各号のいずれかに該当する者は、50万円以下の罰金に処する。
・医師法第21条は「外表異状」で決着
医師法第21条(異状死体等の届出義務)は、旧内務省時代以来の法律である。元来、身元不明死体等の捜査協力のための規定であり、旧内務省が旧厚生省、警察庁に分離した後も、事件捜査への協力という形で医師法の中に残された規定であるが、同33条の2で、罰則を伴っている。刑事捜査は医療の協力により成り立っており、医師法第21条は永年何ら問題を呈していなかった。
この無害と思われた規定が急に凶器と化したのが、東京都立広尾病院事件である。東京都立広尾病院事件の詳細については、既に考察を行ってきた。医師法第21条に関する東京都立広尾病院事件以前の判例としては、1969年(昭和44年)の東京地裁八王子支部判決があるが、それまで、特に注目されていたわけではない。
1994年(平成6年)、法医学会が「異状死ガイドライン」を発表した。ガイドラインは臓器移植推進のために作られたものであり、単に、一学会の見解を述べたものに過ぎなかった。ところが、平成7年度版死亡診断書記入マニュアルに厚労省が、「法医学会異状死ガイドライン参照」の文字を入れたことから大きな問題が発生した。
一学会のガイドラインを厚労省が死亡診断書記入マニュアルに引用したことにより、ガイドラインに権威が生まれ、医師法第21条の異状死体との混同が起きて、現場の混乱を招くのである。
加えるに、東京都立広尾病院事件裁判の最中、厚労省は、「リスクマネジメントマニュアル作成指針」という問題通達を出すのである。結果的に、厚労省の二重の失策であろう。これらが東京都立広尾病院事件判決に影響を与えたことは明白である。