次に馮鉄平が呼ばれた。彼は小柄で頭にニット帽を被り、終始不遜な態度を取っていた。
「馮鉄平さん、42歳。舞台に立たれた時、烈斗さんに何か異状はありませんでしたか?」
尾崎が訊ねた。
「さあね、何も気づかなかったな」
「そうですか、じゃあもう結構です」
「は? これだけ待たせておいて訊くのはたったそれだけかよ」
「何か他にご存じのことでも?」
「いや、そう言われると……ただ、この間すごい噂を耳にしたけどな。事件とは関係ないかもしれないけど」
「どんな噂です?」
「ここだけの話だぜ。絶対誰にも言うなよ。
ある先輩の役者から聞いたんだけど、昔、枝園監督が新進気鋭の若手監督として有名になった頃、まだ20代だった瑠璃さんを舞台に登用したことがあったらしい。その時監督は随分瑠璃さんにご執心で、稽古の後しつこくホテルに誘ってたらしい。その先輩が言うにはな、ホテルに呼び出して無理矢理やっちゃったんじゃないかって話さ。
その直後、瑠璃さんが急に役者を休業してから2人が一緒に仕事をすることは長らくなかったのに、急にこの舞台で数十年ぶりに再会することになったってわけさ。どうだ、面白い話だろ」
馮は卑屈な笑みを浮かべた。
尾崎は顔を曇らせ、天蓋の方を見たが彼は居眠りをしていた。
次回更新は10月5日(月)、21時の予定です。
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