【前回の記事を読む】開演直前、主演俳優は「カーテンコールでサプライズをしたい」と舞台監督に相談していた…だが内容は明かさず、その日の本番中に死亡した
ダウト2――シェイクスピアを疑え
次に黒田飛鳥が呼ばれた。彼は半白のダンディな男だった。
「黒田飛鳥さん、59歳。息子さんが亡くなられたばかりのところを誠に申し訳ありません。黒田さんは杯に真珠を入れる演技をされたそうですが、その時に杯に何か入っていませんでしたか?」
「いいえ、何も」
「真珠か何か杯に入れましたか?」
「いいえ。あれは演技だけで実際には中には何も入れていません」
「烈斗さんがその後もう一度杯をあなたに無理矢理飲ませる演技をした。あの時は?」
「その時も何も入っていませんでした」
「そうですか。烈斗さんは最近何か悩んでいるようなことはなかったですか?」
「まあ、理亜さんとお付き合いしていることが週刊誌の記事になったのはショックだったようです。私達夫婦も知らなかったんです。あの記事が出た後、気まずそうに私達の前で説明していました。お互い好きで付き合っているんだから悪いことではないと言ってやりましたが、進さんにはちゃんとご挨拶しないと駄目だぞと、そこは厳しく言ったのですが……」
「実際、ご挨拶に行かれたんでしょうか?」
「まだ行ってなかったんだと思います。そうしたらこの舞台が始まってしまって、一緒にお仕事するのに挨拶がないなんてありえないぞと言ったんです。
私達夫婦は進さんにお騒がせして申し訳ありませんと挨拶に行きました。
そしたら『若いもん同士が恋愛をするのは当たり前だ』と言って快く許してくださったんです。
でも烈斗はそれでも進さんになかなか声をかけにくかったようで、そのことで頭を抱えていたのかもしれません」
「少し質問させていただいてもよろしいかな」
天蓋が横から口を挟んだ。
「今部下に指示してここにいる全員の身元調査をさせていただいているのだが、あなたと加藤瑠璃さんの婚姻届は今から27年前に提出されている。烈斗君は28歳だ。これは一体どういうことですかな?」
黒田は渋い顔でうつむいてしばらく間を開けてから口を開いた。
「公にはしていませんでしたが、烈斗と私の間に血の繋がりはありません」
「えっ、そうなんですか?」
尾崎が驚いて言った。
「妻は私と結婚する数年前から病気を理由に役者を休業していました。しかし、それは実は病気ではなく妊娠だったのです。彼女はマスコミにばれないように内密に烈斗を出産しました。私が彼女と付き合い出した時には既に烈斗は生まれていたんです」
「それじゃ、烈斗さんの父親はあなたではないと。では誰なんです?」
「それは知りません。訊いても彼女は答えなかったし、私もそれ以上知りたくはなかった。ただ私は烈斗を本当の自分の子供として愛していました。だから私には血の繋がりなど関係なかったんです」
尾崎は伊藤と顔を見合わせた。