【前回の記事を読む】頭部を至近距離から撃たれ、死亡した男性…だが警察が現場をいくら捜しても、撃ち込まれたはずの“弾丸”だけが見つからず…

ダウト1――銃殺を疑え

翌朝、高井良が出勤し、教3のドアを開けるとまたしてもそこにいたのは詩だけだった。

「おはよう」

「おはようございます。係長はまだ来てませんか?」

「いや、見てないわよ」

PC画面を見つめたまま悠長にコーヒーを啜りながら詩が答えた。

「昨日も結局最後まで来ませんでしたよね。これって無断欠勤じゃないですか? こんなことでいいんですか?」

「さあ、今までも何日もいないってこともざらだったからね。

そういえば以前、松田課長から『木曽はどこにいるんだ?』と言われて慌てて連絡したら、『今、カラル大神殿の上にいる』って言われたことがあったっけ」

「カラル大神殿ってペルーじゃないですか! 届けも出さずに海外に行ってたんですか? 信じられない。よく今までクビになりませんでしたね」

「それが不思議なのよねえ。今までも散々不祥事をやらかしてきてるんだけど、クビどころか降格や左遷にすらならないのよ。

だから周囲では天蓋さんは川崎刑事部長の弱みを握ってるんじゃないかって噂されてるのよ」

「まさか、それで特命を……」

「うん、何?」

「い、いえ、何でもありません。ところで、昨日のY公園銃撃事件は何か進展があったんでしょうか?」

「ああ、あの事件? 私が知るわけないじゃない」

「そうですよね」

「ああ、ただ、もう監察医務院から司法解剖の結果が一課に届いたみたいで、刑総の庶務にも書類が来てたみたいよ。コロネちゃんが言ってた」

「えっ、じゃあ、資料を見れるんですね」

「1,000円」

詩は罰金缶を高井良に差し出した。

「えっ?」

「『見れる』じゃなくて『見られる』が正しい日本語。『てにをは』は免除って言ったけど、さすがにそれは天蓋さんから怒られるわ」

「まだ初任給も貰ってないんですよ」

ぶつくさ言いながら高井良は1,000円を払った。

「ところでコロネちゃんって誰ですか?」

「保倉(やすくら)コロネ。庶務係の女の子。コロネって本名なのよ。かわいいよね。

ただいっつも名字で呼んでくださいって怒られるけどね。ところで、別に私達は資料を勝手に見られるわけじゃないからね。ただ天蓋さんは別だけど」

「えっ、天蓋さんはいつも捜査資料を見てるんですか?」

「ほとんど全ての捜査資料に目を通してるみたいよ。何が目的なのか分からないけど」

「そうですか。僕、ちょっと刑総に行ってきます」

そう言うと、高井良は部屋を出ていこうとした。

「ちょっと、まさか本当に捜査資料を見るつもりじゃないでしょうね!」

「大丈夫です。光信さんにはご迷惑をおかけしませんから」

高井良は廊下を歩いて行った。

「大丈夫かな……」

詩は心配そうに彼の後ろ姿を見送った。