退職した翌日、渉は近くの公園のベンチに座って、しばらく何もしなかった。春だった。桜がまだ少し残っていた。

(また、ゼロからだ)

貯金は42万あった。家賃が月65,000円。食費、光熱費、通信費を合わせれば、月に10万は出ていく。4か月で底をつく計算だった。

翌日からハローワークに通い始めた。

履歴書を書いた。学歴は高卒。職歴の欄も正直に書いた。

5社受けた。全部落ちた。

6社目の面接で、担当者が渉の履歴書をじっと見てから言った。

「リラクゼーションサロンって、どういったお店ですか。女性専用と書いてありますが」

渉は一瞬固まった。

「女性専用、ということは、男性スタッフが女性客に施術する、ということですよね」

担当者の目が変わった。値踏みするような、冷たい目だった。絵里子の目とよく似ていた。育ちが知れる、と言ったあの目に。

「……そうです」

「それは、いわゆる……」

「はい」

沈黙が流れた。担当者は履歴書を裏返しにした。

「今回は見送らせていただきます」

帰り道、渉は駅のホームで電車を待ちながら、壁に背中をもたせかけた。天井を見上げた。

(もう、この経歴は書けない)

書き直した履歴書で3社受けた。2社は書類落ち。1社は面接まで進んだ。工場の仕分けのアルバイトだった。面接担当者は渉の顔を見て「若いね」と言い、職歴はほとんど見なかった。翌日、採用の電話が来た。

時給は980円だった。

次回更新は9月19日(土)、22時の予定です。

 

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