【前回の記事を読む】「プライベートで会いたい」と言う客。断ると、教えてないのに毎日ラインが来て…次の予約日、現れたその客は…

2.

渉はゆっくりと触れ続けた。浩子の息が乱れ、声が漏れ始めた。やがて浩子の体から、長く溜まっていたものが静かに抜けていった。

静寂の中で、浩子がぽつりと言った。

「……ねえ、ワタルさん。私のこと、本当に何も感じないんですか」

渉は静かに答えた。「大切なお客様だと思っています」

浩子は小さく笑った。でも目は笑っていなかった。

「……そうですよね。ごめんなさい」

帰り際の浩子の目は、思い詰めた色をしていた。

渉はその夜、はっきりとした嫌な予感がした。

1週間後の雨の夜、仕事帰りに駅へ向かって歩いていると、背後から声がした。

「ワタルさん」

振り返ると、浩子が立っていた。コートを着て、小さなバッグを持って。何時間も雨に濡れたまま、そこに立ち続けていたのだとわかる目をしていた。

「帰ってください」

渉はそれだけ言って、歩き始めた。背中に視線を感じた。振り返らなかった。