それからだった。

LINEが週に3回、4回と来るようになった。

『あんなに丁寧に触れてくれたのに、どうして』

『なんで無視するの』

『私を弄んだの?』

『ねえ、私とワタルさん、本当は運命の2人なのよ』

渉はブロックをした。すると別のアカウントから来た。アイコンも名前も毎回違った。

ある朝、マンションのポストに、差出人のない封筒が入っていた。

中の手紙は、インクの文字がところどころ滲んでいた。涙の跡だった。住所まで、知られていた。

封筒には、もうひとつ何かが入っていた。手のひらに振り出して、渉は息を呑んだ。黒い髪の毛が、束ねて入っていた。湿っていた。誰の髪なのか、わからなかった。渉は震える手で、封筒をテーブルに置いた。胃が、ぐっと縮んだ。

だがそれから半月ほどは、何も起こることがなかった。渉は少しだけ息をついた。もう終わったのかもしれない。

 

十二月の朝だった。渉の部屋の玄関ドアに、赤いペンキで、書きなぐられていた。

「うそつき」

そう書いてあった。

渉は数秒、ドアの前で動けなかった。優しくしたことが、嘘だと言われている。丁寧に仕事をしただけのことが、嘘つきと呼ばれている。何かが、自分の体から、すっと抜けていった。

隣の部屋のドアが開いた。中年の女性住人が出てきて、ペンキの文字と渉を、交互に見た。

「あなた、何をしたの」

責めるような声だった。

「いえ、俺は、何も」

「こんなこと書かれるなんて、よっぽどでしょう。気持ち悪い。管理会社に言わせてもらうから」

女性はそう言って、ドアをばたんと閉めた。