「未だに思い出せないのか。仕方がない。最初から説明してやろう。
古葉月渚――おまえは確かに生まれつき凄まじい力を持つ超能力者だった。
だが、おまえは普段は全く普通の少女であり、特別な力など出すことは全くできなかった。
おまえは自分の生命が危機に瀕した時だけ、信じられないような力を発揮することができたのだ。乗っていた航空機が爆発した時、おまえは初めて自分の力を発揮し、一人だけ奇跡的に生き残ることができた。
だが、その後の運命は悲惨だった。奇跡の少女として世間に騒がれ、運よく逃れたが、那花吉郎に捕まってしまった。
落ちぶれていた彼はおまえの力を利用して世間に一矢報いてやろうと必死だった。だからおまえに毎日過酷な訓練を課し、できなければ何時間でも激しく叱責した。
それでもおまえは彼の期待に応えようと必死に努力した。実の両親を失ったおまえにとって、彼らは唯一の家族だったからだ。
だがTV出演した時に全ての努力は水泡に帰した。博士はおまえに失望し、激しくなじった。そして彼は逮捕され、おまえは那花小百合に引き取られた。
小百合に子供はいなかったが、彼女はこの世界で会ったのとは全く異なる人柄だった。
おまえを最初から白い目で見て、愛情のひとかけらも示さなかった。学校にも行かせてもらえず、毎日おまえは部屋に閉じ籠ってばかりだった。
唯一の心の救いだったのはクロスケという迷い猫だった。小百合は反対したが、おまえは珍しく譲らず、家で飼うことになった。
だが、そんなささやかな幸せも長くは続かなかった。15歳の時、刑務所で那花博士が亡くなった。
悲観的になった小百合は夫の死をおまえのせいだと当たり散らした。
そして里親関係を解消し、相愛園という施設に送り出した。
だが、そこでクロスケを飼えないと思い込んだおまえはこの世の全てに絶望した。そしてこの観音岩から海へ身を投げたのだ」
次回更新は9月2日(水)、21時の予定です。
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