【前回の記事を読む】呆けた顔で薄汚れた人形を拾うと、それが母の形見だったことを思い出した。「ごめんなさい…」と泣きながら、彼女は崖の先端から身を乗り出し…
サイコ10――古くて新しい人生
世の中は何でこんなに面白くないんだろう――。
スーパーの鮮魚コーナーに魚を並べながら古葉月渚は思った。
15歳の時、彼女は観音岩から身を投げて自殺を図った。
しかし、船で付近を捜索していた園長に発見され、引き上げられて一命を取り留めた。胸にしっかりと抱いていたはずの人形はどこかへ行ってしまった。
その後、彼女は施設に戻ったが、観音岩に連れていったクロスケは戻ってくることはなかった。
彼女はその後、何度も園長の目を盗んで観音岩に彼を捜しに行ったが、ついぞ見つけることはできなかった。
3年後、施設を出る時、園長は北海道の仕事を勧めてくれたが彼女は断り、職員寮を有している都内のスーパーに就職した。
しかし安月給で朝から晩まで働かされ、職場には気の置けない同僚もおらず、休日も家に引き籠っているだけの毎日に彼女は辟易していた。
「ちょっと、いつまでのんびり魚並べてんのよ。もうお客さん来てんだから、レジの方も手伝ってよね」
矢野敦子という赤紫色の三角巾を被り、エプロンを着た60歳くらいの厚化粧の先輩店員がやってきて、眉間に皺を寄せながら言った。
「はい、今行きます」