彼女はレジに行ったが、まだ朝ということもあり、客はまばらだった。
小太りの中年女性が買い物かごを台に置いたので、彼女はレジ打ちをした。
「1,526円になります」
女性は1,500円を置いたまま平気な顔をしている。少し間をおいて月渚が言った。
「あの、26円足りませんが」
「はあ? 私がお金をごまかしたって言うの? 今から細かいの出すつもりだったんじゃない。あんた、客を犯罪者扱いしようって言うの?」
女性は目を剥いて大声で言いがかりをつけてきた。
「いえ、そんなつもりじゃ。申し訳ありません」
「まったく、どういう教育をしてんのよ、この店」
女性は憤慨しながら店を出て行った。この客はいつも何かしら言いがかりをつけて、店員が困惑するのを見て自分のストレスを発散させることで知れ渡っているクレーマーだった。
矢野は彼女が来たのを見て、わざとレジに月渚を呼び寄せたのである。
鮮魚コーナーに戻ろうとした時、近くで矢野が月渚よりも若い同僚である栗原佐紀と、月渚を横目で見ながらひそひそ話をしているのが耳に入った。